第七回 田崎真也 氏 × 殿内崇生

田崎 真也 氏
1958年3月21日生まれ
東京都渋谷区に生まれるも間もなくして神奈川県相模原市へ移る。幾徳工業高等専門学校を中退後、レストランでウェイターの仕事を行っている中でワインの世界に触れ感化される。その後1977年、本場フランスに渡り、ブルゴーニュ地方やボルドー地方のワイン蔵元を訪ね歩く。一度帰国してから再度フランスに渡り、ソムリエ学校を卒業する。1980年に帰国後、1983年に第3回全国ソムリエ最高技術賞コンクールで優勝する。1995年に第8回世界最優秀ソムリエコンクールに日本人として初の優勝を遂げる。この快挙も相まって、日本のワインブームの立役者となる。現在は株式会社サンティール代表としてワイン学校(ワインサロン)、フランス料理(レストランエスプリュス)、イタリア料理(ワイワイ)を主宰。テレビやラジオ、講演、ディナーショー等、幅広く活躍している。その他、長野県原産地呼称管理制度ワイン官能審査委員長を務める。2016年2月には日本ソムリエ協会会長就任。
殿内理事長
本日は宜しくお願い致します。
早速ですが私たち横浜青年会議所は65年の歴史がございます。65年間活動をしていれば歴史と伝統があります。毎年毎年色々な事業を行っているのですが、私が考えている歴史と伝統というのは、歴史というものが過去に行った事業とするならば、伝統というのは、それを培ってきたものだと考えております。歴史というのは不変なものであり、伝統というものは不変なものもあれば時代に即して変化をしていくとものだと考えております。そこで、田崎様にとっての「伝統」とはどのようなものか教えて頂けますか。
田崎 氏
色々な解釈があるかと思いますが、大きくとらえると人が生きている上での基盤となるものではないかと思います。それぞれの人により様々なプロセスがあり現在に至っていて、その人、その地方、その国に、または所属する団体よって伝統いうのは異なる訳であり、今を生きる上での基礎となるものという解釈ができるのかなと思います。
殿内理事長
なるほど。ありがとうございます。
次にソムリエというお仕事をしている中でワインの伝統というものを教えて頂けますか。
田崎 氏
一つには歴史という解釈の仕方がありますけれども現在の姿のワインがあるのは伝統により培ってきたプロセスがあり現在がある訳です。ただ、伝統というのはある時点の何かを同じように継承して行くのでは無く、毎日、日々、進化をして現在に至っているのだと思います。今日行った事は5年後、10年後の伝統になるのだと思います。
殿内理事長
ありがとうございます。
続いて田崎様自身の事をお伺いしたいと思います。ソムリエを目指そうとした原点を教えて頂けますか。
田崎 氏
原点は「ナポリタン」です。ナポリタンの発祥は横浜ですよね。
学生時代にアルバイトでナポリタンを作りお客様に食べて頂いた際のお客様のリアクションが非常に感動的でそれがきっかけでサービス業を目指そうと思いました。実はその時期は船乗りになろうと思っていた時期でもあり、その学校にも通っておりました。しかし「ナポリタン」により人生が大きく転換していきました。従って現在はソムリエという仕事をしていますが、ソムリエというのはお客様に喜んで頂く時間を提供するという仕事なので、その原点というとワインでは無く「ナポリタン」という事になります。
殿内理事長
ナポリタンとは驚きです。今、お話し頂いた中でソムリエというのはお客様に喜んで頂く時間を提供するという事でしたが特に気を付けている事、または、相手から求められている事を教えて頂けますか。
田崎 氏
ワインや料理はあくまでツールであり、私たちソムリエはサービスを提供して対価を得る訳です。分かりやすく言いますと、お客様に「このワインは美味しいね」と言って頂く仕事をしている訳では無く「今日は本当に素敵な時間を過ごせた。楽しかったよ。」と言って頂くのが私たちの仕事です。ワインを提供するだけならば例えば千円のワインを千円でお売りすればいい訳です。しかし、私たちは千円で購入したワインをいかにして三千円でお売りするか、その二千円の差の中で何を提供できるかをというところを考えるのが重要だと思っています。
殿内理事長
そのようなサービスを提供する中で初めてお会いする人がほとんどだと思いますが、例えば好みのワイン等、事前に分からない事が多いかと思います。限られた情報の中で満足頂く時間を提供する為に行っている事を教えて頂けますか。
田崎 氏
サービスを提供する相手の情報収集は必ず行います。情報収集の仕方においては事前の予約の電話の様子等がありますが、その方の好みや雰囲気というのは実際にお会いしてみないと分からない事が多いです。日本の昔からの慣習として「一見様お断り」がありますが、実は非常に良いスタイルだと思っていて、つまりご紹介が無いと良いサービスができないのでご紹介頂く、本当は一見様お断りの原点には違う背景もあるのですが、実際にはご紹介頂く事により、その方の習慣や好みを事前に伺う事ができる良いシステムだと思います。しかし、現在のおいてこのシステムは中々、受け入れられないので、やはり実際お会いした瞬間からその方の情報を収集する事、または、その能力が重要だと思います。
殿内理事長
そのようにお会いした瞬間から集めた情報を分析し、今日はこのようなワインを提供しようと判断するのは経験でしたり、例えばワインならば、その歴史や伝統というのを理解した上でこそベストな判断ができるという事でしょうか。
田崎 氏
そうですね。
また、サービスというのはマニュアル通りにできないと思っています。マニュアル通りのサービスはサービスでは無く作業だと思っています。サービスというのは個別のものであり、常に新しいものであるべきです。前例を参考にする事もありますが前例通りに行うというのは考えない方がいいと思います。その前提として歴史や伝統というものを知っておくという事は必要だと思います。その上で正確な判断ができる。
殿内理事長
ありがとうございます。
せっかくですのでワインについてお話しをお伺いしたいと思います。
田崎様はワインについてどのように覚えられましたか。
田崎 様
最初は分かりませんでした。
極端な話ですが最初は赤ワインと白ワインの違いが分かればいいのです。そこから始める。しかし、そこが一番難しい事ところだと思います。赤ワインと白ワインは何が違うかという事を色々な面から知る事が重要です。それは製造工程では無くテイスティングで知る必要があります。醸造方法を覚える事から始めたりすると嫌になってしまうかと思います。先ずはワインを味わってみて、色が違うというのは何故違うのか、または香りが違うのは何故かという事を一つひとつ分析しワインを自分の言葉で定義づける。このような作業を書籍だけでは無く味わいながら自分の中の知識とすり合わせて行く事で覚えていく事が重要です。
殿内理事長
少し話がそれてしまいますが、ワインと言えば高価なものやそうで無いものがあるかと思うのですが、この値段の差というのは味に影響があるのでしょうか。
田崎 氏
ある程度は影響があります。例えば千円と三千円で同じ地域、同じ国、同じ赤ワインで同じブドウを使っていたとして、やはり千円と三千円という三倍の差は味に出てきます。ただ、三千円のワインと百万円のワインとどう違うかと言われると、何百倍の違いというのは正直分からないと思います。
殿内理事長
なるほど。ちなみに一番お好きなワインはありますか。
田崎 氏
それはございません。
ワインというのは、この日この場で何を選ぶかというところが非常に楽しい訳であります。最後の最後で全部のシチュエーションが整ってから選ぶ事ができるものなので、良く質問される事なのですが、その瞬間に選ぶものが私のその時に好きなワインという事になります。
殿内理事長
ありがとうございます。
お酒の中でビール等はものによって大きく根本的な味が変わる事はありませんが、唯一変わるのはワインだと思うのですが何故なのでしょうか。
田崎 氏
それは、ワインはブドウが基本でありブドウにより影響されるからです。しかし、実は日本酒の変化が大きいのをご存知でしょうか。最近流行っているものは、息子さんが違う仕事をしていて家業を継がなければという事で戻り、そして自分の代になったのならば先代からの良いものを活かしながらも新しい事をやろうという事で今までの伝統とは違うスタイル、独自のスタイルを生み出し新しいものを作り成功しております。しかし、これらは伝統を見直してこその新しい発見だと思います。違う目線で伝統を見直した時に、伝統に乗りすぎていたものを今の時代に合うものとはどのようなものかと考えたからこそだと思います。
殿内理事長
なるほど、ありがとうございます。
私たちの活動は市民の皆様の為でしたり、またはメンバーの為だったりするのですがミスマッチになってしまう事が多いのですが、その活動の大前提として組織の事、組織の歴史の事、伝統を理解した上で時代に即した形で活動をしなければならないと思っています。
田崎 氏
伝統を意識しすぎるとおごりになってしまう事もあります。伝統を重要視しすぎた結果、今、目の前にある問題または人たちの事が見えなくなってしまう場合があります。本質というか、何の為に活動をしているのかという事を見つめるべきですよね。
殿内理事長
そうですよね。その視点を持つ事は非常に大切な事だと思っています。
本日は長時間に渡りましてありがとうございました。
田崎 氏
ありがとうございました。
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対談後記
5月例会は田崎真也様にお越し頂いた。とても真摯な方で質問に対してご丁寧にお答え頂けたのが印象的だった。例会の対談の中ではお話しされていなかったが、この対談にあるように「伝統を意識過ぎるとおごりになってしまう」という言葉は大変深い言葉でもあり、我々が横浜青年会議所で活動する上でも常に意識すべき言葉であると感じた。先輩方が築きあげて頂いたからこそ今がある。今だけだったら出来なかった事も多々あり。肝に銘じて活動していこう。
殿内崇生





